庭の虎模様

清水鱗造



兵隊の案山子が すっくと立って 草を踏む 埃の戦場から ただいま帰り とうもろこしのように 乾いている 垣根のばい菌も 甘いサボテンの実もたわわに 帰りましたと 唾を床に吐き 牛乳の箱つぶして ぐにゃりと ちゅっと白い乳を 踏む 虎模様の庭に 松ヤニのかけら 粉々に 兵隊はカラス の一枚の羽根 にたかったテントウムシ 陽光を食う ブリキの電車のおもちゃ 行ったり来たりして コールガールが 窓から覗いている 寝ぐせの髪に 絡むあめ玉一個が とれない あめを踏み 草履の裏が粘り 踏んでこすって 甘い敷石に 氷枕はぶはぶは 煙草の火のあたま 捨てる 熱い ガオっと 虎模様の庭は起き出して 牙があたまの つんつんしてる寝ぐせに触れる 朝 四角い虎模様の毛布 耳は猫 しゅるしゅると やはり虎の 毛皮 この野郎 と缶コーヒーをぶつけ 茶色い液が垂れる 垣根の向こうに泳ぐピラルクは こちらを見つめ ざらざらと虎の喉 を触っている * 町の入口に 首吊りの 列があって 窓からそれが見えるなら 銃器を用意する たいていの場合 銃器は用意して よい 窓から見えたときは もう遅いから たいていの町の入口には 物干し竿に 縊死者が並び 糞のような意思が待っている だから 戦いは不可避だ 首の列は下手な宣伝と思え * 敵意の 遠心分離器が 回る * 庭には 血が流れている 青く赤く 脳髄からの信号が 午睡の終わりを告げている 明らかに 虎模様 の庭の細い草 が真新しい色紙に 字を記す

[ホームページ(清水)] [ホームページ(長尾)] [編集室/雑記帳] [bt総目次]
エキスパンドブック版  [98/4/6 朗読会]
[No.22目次] [前頁(公孫樹)] [次頁(政治の中のバタイユ 1)]
mail: shimirin@kt.rim.or.jp error report: nyagao@longtail.co.jp