『グァバの木の下で』というのが、そのホテルの名前だった。

田中宏輔



こんなこと、考えたことない? 朝、病院に忍び込んでさ、 まだ眠ってる患者さんたちの、おでこんとこに ガン、ガン、ガンって、書いてくんだ。 消えないマジック、使ってさ。 ヘンなオマケ。 でも、 やっぱり、かわいそうかもしんないね。 アハッ、おじさんの髪の毛って、 渦、巻いてるう! ウズッ、ウズッ。 ううんと、忘れ物はない? ああ、でも、ぼく、 いきなりHOTELだっつうから、 びっくりしちゃったよ。 うん。 あっ、ぼくさ、 つい、こないだまで、ずっと、 「清々しい」って言葉、本の中で、 「きよきよしい」って、読んでたんだ。 こないだ、友だちに、そう言ったら、 何だよ、それって、言われて、 バカにされてさ、 それで、わかったんだ。 あっ、ねっ、お腹、すいてない? ケンタッキーでも、行こう。 連れてってよ。 ぼく、好きなんだ。 アハッ、そんなに見つめないで。 顔の真ん中に、穴でもあいたら、どうすんの? あっ、ねっ、ねっ。 胸と、太腿とじゃ、どっちの方が好き? ぼくは、太腿の方が好き。 食べやすいから。 おじさんには、胸の方、あげるね。 この鳥の幸せって、 ぼくに食べられることだったんだよね。 うん。 あっ、おじさんも、へたなんだ。 胸んとこの肉って、食べにくいでしょ。 こまかい骨がいっぱいで。 ああ、手が、ギトギトになっちゃった。 ねえ、ねえ、ぼくって、 ほんっとに、おじさんのタイプなの? こんなに太ってんのに? あっ、やめて、こんなとこで。 人に見えちゃうよ。 乳首って、すごく感じるんだ。 とくに左の方の乳首が感じるんだ。 大きさが違うんだよ。 いじられ過ぎかもしんない。 えっ、 これって、電話番号? 結婚してないの? ぼくって、頭わるいけど、 顔はカワイイって言われる。 童顔だからさ。 ぼくみたいなタイプを好きな人のこと、 デブ専って言うんだよ。 カワイイ? アハッ。 子供んときから、ずっと、ブタ、ブタって言われつづけてさ、 すっごくヤだったけど、 おじさんみたいに、 ぼくのこと、カワイイって言ってくれる人がいて ほんっとによかった。 ぼくも、太ってる人が好きなんだ。 だって、やさしそうじゃない? おじさんみたいにぃ。 アハッ。 好き。 好きだよ。 ほんっとだよ。

『陽の埋葬・先駆形』


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