共寝

関富士子



合歓の木が川に張り出して繁っているので その全身が水に映る 頬を染める刷毛のような赤い房が 流れにきりなく落ちている さねかずらが土手をおおって 日は明るく影は濃い そこは何年も前に住んでいた家の近くの川で 小さい子供たちがザリガニ釣りをしていたのだが 今は誰もいない声も聞こえない 目覚めるときに 一晩じゅう川のほとりにいたようだ せせらぎにやさしく洗われて満たされている 少し前まではちがった 男が毎晩やってきて朝までわたしを抱きしめた わたしたちは抱き合いながら 口説いたりののしったりするらしかった 言葉はわからないがさまざまな感情に揺さぶられて 眠りながら泣いたり笑ったりした 目覚めると首や背中に抱擁の疲れが残っていて 快楽のあとのように存分に腰が重かった やはりとても幸福だった 男が来なくなってから 合歓の木が現れる 一晩じゅうたえず見ている気がする ときに日がかげり水に映る影はくろずむ 雲が晴れて小さな波がいくつも輝くこともある なんと静かな合歓だろうか ただいつまでも川面に花が落ちるのである

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エキスパンドブック版  [98/4/6 朗読会]
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