合歓の木が川に張り出して繁っているので
その全身が水に映る
頬を染める刷毛のような赤い房が
流れにきりなく落ちている
さねかずらが土手をおおって
日は明るく影は濃い
そこは何年も前に住んでいた家の近くの川で
小さい子供たちがザリガニ釣りをしていたのだが
今は誰もいない声も聞こえない
目覚めるときに
一晩じゅう川のほとりにいたようだ
せせらぎにやさしく洗われて満たされている
少し前まではちがった
男が毎晩やってきて朝までわたしを抱きしめた
わたしたちは抱き合いながら
口説いたりののしったりするらしかった
言葉はわからないがさまざまな感情に揺さぶられて
眠りながら泣いたり笑ったりした
目覚めると首や背中に抱擁の疲れが残っていて
快楽のあとのように存分に腰が重かった
やはりとても幸福だった
男が来なくなってから
合歓の木が現れる
一晩じゅうたえず見ている気がする
ときに日がかげり水に映る影はくろずむ
雲が晴れて小さな波がいくつも輝くこともある
なんと静かな合歓だろうか
ただいつまでも川面に花が落ちるのである
|