近況

布村浩一
五月に恋におちた。畳の上で悶々と彼女のことを考えていると、あまりの気持ちの高ぶりに、自分をニュートラルな方向に持っていくものが必要と考え、サラ・ヴォーンの50年代のボーカルを買った。そしてクリフォード・ブラウンの「STUDY IN BROWN」、もう一枚「MORE STUDY IN BROWN」を買った。最高なのは「STUDY IN BROWN」で、軽快で身体に押しつけてくるものが何もない。部屋の中を何十分もクリフォード・ブラウンのトランペットが流れても、苦痛も退屈さも、飽きもこない。ジャズはジョン・コルトレーンやマイルス・デイビスしか聴かなかったけれども、クリフォード・ブラウンという音楽もあったのだ。今夜も長いためいきと、思い出したように「もうだめだ」と叫ぶ僕の上を、クリフォード・ブラウンの軽い触れるか触れないかのようなトランペットが流れていく。(99.6)

倉田良成
「ガルデルの亡命」という映画を、職場のKさんにダビングしてもらって観ました。三千人もの市民が(おそらく当局によって)拉致され、行方不明となったいわゆるブエノスアイレス事件後の、パリにおける亡命者たちの日常を描いた作品ですが、音楽を担当したピアソラのタンゴとその踊りがじつに色っぽくて素晴らしい。加えて、ガルデルとは1930年代に飛行機事故で亡くなったアルゼンチンの実在の国民的歌手のことで、その彼が亡命者の幻想のなかに出てきて歌うタンゴ歌謡はオリジナルの原盤を用いていて、聴くうちに胸が熱くなるのを覚えました。以来、わが家はタンゴとラテン音楽漬けの毎日です。

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エキスパンドブック版  [98/4/6 朗読会]
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