山本泰生



あなたは眠っていて激しくうなされ声にならない叫び声をあげる こんな異常さに慌てて揺り起こされたことはないか そのわけはだれにも言えないようなことで ふたたび ぼくはまどろみ うわごとを繰りかえす ひとを壊し創る不思議な力(生の薬)はどこ 夏が割れて 冷えびえとした夕闇 コウモリが空中を音もなく飛びさり飛びかえり ふいと いちにちの惰性に糞を落とす ぼくは内面に無色・油状の薬を吸わされ 引かれる導火線 ダイナマイト(力の意味のギリシア語に由来) に化けることが待たれている 切れぎれの過去が悔恨でくすぶっているのに いまだ 雨や涙に濡れて 点火しようとしない 夏は黄カンナの花弁にとまり 道行きを不吉に見送る コウモリがぼくをある建築現場に誘う にんげんの風味を高める力のクレーンが備わり そのくせ 自重が過ぎて稼働しえないクレーン ひとり行くぼくをもっと多彩に改造できないもどかしさ ぼくはいま 微笑をやさしく憎悪のうえにまぶした しあわせの空き缶 中では ぱりぱりと乾いた不服が折れ曲がり そして大量の空虚がうねっている シルバーグレイの哀しみ ぼく 余裕のコウモリを捕えようとして あざ笑い擦り抜けられる ぼくはなお 満たされぬ記憶から具体的に危うい薬をあつめ ひっそりと混ぜる また鋭い感覚の雷管 いつの起爆かも決めず ぼくの底へ仕掛ける <<<<<<<<<<ぼくは世界のまたの名か ちがう <<<<<<<<<<ぼくとは世界だ! そう言い切るや 炸裂! ぼくのはらわたがぼくの皮から吹きあがる ぼくの堰が崩れぼくの水路から水がほとばしる 煌くことばたちがぼくの岬へ巡りめぐる しかし 全身の岬にくきやかな火柱は立たない 脅威の薬が足りない ひょっとすると祈りの薬も 夏は素早く あたりを深緑に染め ぼくを白髪にする ぼくは何でも嗅ぎつける猟犬を連れて 街角に消える 昨日今日の不発弾とやらも追い コウモリを秘密裏に飼っているあなたよ 破壊から未生のものを生み出す 内面の恐るべき火薬を知らないか ひとが爆発したり 心鎮めたりする ニトロ(ニトログリセリン)のような

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エキスパンドブック版  [98/4/6 朗読会]
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