断片

森原智子



T その横笛は 息絶えるときひとこえ鳴った   空中に肺臓のない鳥が一羽いる U 長い手紙を好まないのは 物理的にも長いからだ。今日も横断歩道を白くらく   らくと渡ってくる V 狂人は先ず狂人を模倣する 彼女は地下鉄の壁のシミに沿って背中で歩くので   私もそうしたが 赤いクレヨンを持っていなかったから迫力に欠けたのだ W 大久保のガード下には 三つの凸凹がある。凹についてなら娼婦のハイヒール   と 老客が杖をあずけるところ X マンションの一室。フロアに新聞を敷いて素足を楽しんでいる若い女をカメラ   が三時間追っている Y 錆びた錠前はどの建て物にもピッタリと似合うので 論理をこえている Z ぐったりと手肢を垂らして車椅子にのっていた少女の亡霊が   深夜のセブンイレブンで あんまんのうえにピンクの花印を一心につけていた

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エキスパンドブック版  [98/4/6 朗読会]
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