バス停の××行きと書かれた板に、 蚊が止まっていた。 反射的に叩き潰そうかと思ったが、 刺されたわけでもないのでやめといた。 バスを待つ徒然に蚊が板の上を歩くのを見ていた。 考えてみれば私は六本足の歩き方を知らない。 どうやって歩くのだろうか? 前足を前に出したとき、 中足や後足は前に出ているのか、 宙に浮いているのか、ふんばっているのか。 ところが前足に注意していると、 中足や後足の動きはわからない。 右側の足を見ていたら、 左側など全然目に入らない。 六本足の歩き方は結局わからなかった。 蚊だってこちらにわかるようには、 歩いてくれないのだ。ぐにゃぐにゃと 蛇行していたかと思うとぴたりと止まって、 二本の前足で目の前のあちこちを トントンと叩いている。 それじゃあ前足は触角なのかと思ったが、 そうじゃない気もするし、わからない。 気がついたときにはもういなくなっていた。 やはり叩き潰しておくべきだっただろうか?


(C) Copyright, 1998 NAGAO, Takahiro
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