写真展を観るために、 山手線のある駅で下りた。 何度も通り過ぎているけれども、 下りるのは初めての駅。 改札口を出ると、 線路を跨ぐ細い道があって、 円の内側に向かってその道を歩き始めると、 左側に墓地が見えた。 右側は寺。 会場は墓地の先の喫茶店の先にあった。 写真には言葉が添えてあった。 そのなかの一枚には濁った川が写っていて、 内陸に育ったので海に憧れていた、 川は海につながっていると思って、 川を見ながら海への思いを耐えた、 というような言葉が書かれてあった。 ここからは遠く離れた場所が写っている。 しかし、今それが置かれている場所は、 確か数百年前には海岸線だったはずだ。 そう思ったとき、 内と外の境界が崩れて眩暈がした。 会場を出て駅と反対の方に向かって歩いた。 右側に先ほどとは別の寺。 左側の路地の奥にはラブホテルが見える。 そこで道は二股に分かれていて、 右を選ぶと、すぐに車止めにぶつかった。 その先は下り階段。 私が立っていたところは思いがけず丘の上だったわけで、 足元に家々の低い屋根が並んでいた。 垂れ下がった空には夕陽がぶら下がっていた。 階段を下りて海の底に入っていく。 人が呼吸をしていて歩いているのが不思議に思えた。 *簑田貴子・北爪満喜写真展「くつがえされた鏡匣」二〇〇一年四月一〇日〜四月二四日


(C) Copyright, 2003 NAGAO, Takahiro
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