事後的に



ついに眼だけの存在となって、 ふわふわと漂っていった。 前と同じように、 日の光がさんさんと降り注ぎ、 草木が風になびいている。 音がしないというのは、 不思議なものだ。 何もかもが、 まるで平和であるかのように見える。 川を渡ると、 人の姿が見えてきた。 あの男もいる。 あんなことをしたのに、 何事もなかったような顔をしている。 口を動かしているから、 何かしゃべっているのだろう。 おれのことなど、 眼に入らないらしい。 でも、こうなった今は、 もうどうでもいいことだ。 欲望というものもなくなったらしい。 何をしたらよいのかわからないままに、 何を見たいということもなくて、 さまざまなものが眼に入っては消え、 ただいつも何かが見えていた。


(C) Copyright, 2012 NAGAO, Takahiro
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