1996N729句(前日までの二句を含む)

July 2971996

 月下美人膾になつて了ひけり

                           阿波野青畝

いたときには、大騒ぎされる月下美人。私も、深夜連絡を受けてカメラ片手に見に行ったことがある。その花も、一夜明ければ膾(なます)となる。食べた人によれば、美味とはいえないそうだ。あるいはこの句、人間の美女にかけてあるのかもしれない。だとすれば、作者は相当に意地が悪い。『俳句年鑑・平成五年版』(角川書店)所収。(清水哲男)


July 2871996

 海南風尾をまきあげて紀州犬

                           杉本 寛

南風(かいなんぷう)は、夏の海から吹き寄せる季節風。当然のことながら、高温多湿となり蒸し暑い。そんな暑さの中で、舌も垂れずに昂然と沖を見ている紀州犬。まさに勇姿である。犬をうたった句は多いが、これほど直截にずばりとその姿を言い切った作品は、案外珍しい。この犬、切手の図柄になりそうだ。『杉本寛集』(俳人協会)所収。(清水哲男)


July 2771996

 円涼し長方形も亦涼し

                           高野素十

暑の折りから、何か涼しげな句はないかと探していたら、この句に突き当たった。しかし、よくわからない。素十は常に目に写るままに作句した俳人として有名だから、これはそのまま素直に受け取るべきなのだろう。つまり、たとえば「円」は「月」になぞらえてあるなどと解釈してはいけないのである。円も長方形も、純粋に幾何学的なそれということだ。いわゆる理科系の読者でないと、この作品の面白さはわからないのかもしれない。円や長方形で涼しいと感じられる人がいまもいるとすれば、私などには心底うらやましい昨今である。ふーっ、アツい。『空』(ふらんす堂・1993)所収。(清水哲男)




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