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March 3131997

 聲なくて花のこずえの高わらひ

                           野々口立圃

の句は桜を詠んだものであろうが、むしろ泰山木や朴木が高い枝に大きな花を咲かせている姿を見ると、この詩がぴったりする。樹木は、花を人間のためなどではなく、はるか天上を向いて咲かせている。世界は人間が中心ではないという樹木の主張を感じる。根が地下に張り、枝が天空に伸びるために、樹木を地と天をつなぐ宇宙軸とみなす考えが古くからあるが、無限に拡がる大空を背景に、色とりどりの花を咲かせることを許された樹木の存在は、人間にとって憧れでさえある。(板津森秋)

[編者註]野々口立圃(ののぐち・りゅうほ)は、十七世紀の京の商人。貞徳門。他に「天も花に酔へるか雲の乱れ足」など。




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