1997N420句(前日までの二句を含む)

April 2041997

 初孫はいとしき獣山笑ふ

                           増田耿子

と猫を素材にした詩歌にはロクなものがない。というのが、私の持論だ。対象にべたつきすぎるからである。自己陶酔の押し売りでしかない場合が多いからだ。その意味で、この句の「いとしき」も気にはなるが、孫をずばり「獣」ととらえたところが新鮮だ。言われてみると、人間が本当に「獣」と同じである時間は、赤ん坊のときだけのような気がする。獣は山に棲む。だから、山は微笑して赤ちゃんを見守る存在だ。「山笑ふ」という季語を使った俳句という観点から見ても、異色の一句だろう。『一粒句集』第34集(電通関西支社・電通会俳句部刊)所収。(清水哲男)


April 1941997

 歩かねば山吹の黄に近づけず

                           酒井弘司

流竿をリュックにしのばせ、谷を降りる。朝もやの川面に今、何か動いた。仕掛けを用意する手ももどかしい。早く、あのポイントへ第一投を。竿を納め、山道を戻る。山女に出会えたヨロコビ。山吹の黄がにわかに目に入る。俳誌「朱夏」所載。(八木幹夫)

[memo・山吹]バラ科ヤマブキ属の落葉低木。よく見かけるのでありふれた庭木と思われがちですが、植物分類学上は一属一種の珍しい植物です。学名ケリア・ヤポニカ。ケリアは英国の植物学者の名に由来し、ヤポニカは日本産の意味です。(讀売新聞・園芸欄・小西達夫・April.15.1997)


April 1841997

 靴みがきうららかに眠りゐたりけり

                           室生犀星

ってみるとすぐに分かるが、「うららか」や「のどか」といった季語を使うのはとても難しい。季語自体が完璧な世界を持っているからだ。それで説明がすべてすんでしまっているからである。だから、たいていの場合は、屋上屋を重ねたようなあざとい句か月並みなそれに堕してしまう。その点、この句は自然とは無縁の都会に「うららか」を発見していて、まずは及第点か。おお、懐かしの「東京シューシャイン・ボーイ」よ、いま何処。彼らはみな、とっくに還暦は越えている。(清水哲男)




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