1997N526句(前日までの二句を含む)

May 2651997

 冷酒や蟹はなけれど烏賊裂かん

                           角川源義

まは宴席などでも冷酒を飲む人は多いが、昔は燗をつけて飲むのが一般的だった。したがって、冷酒は応急的(?)宴会で飲まれたものだ。とりあえずの酒だった。急に飲もうと話が決まり、燗をつけるなどまだるっこしいことはやっていられない雰囲気。これで肴に蟹でもあれば最高だなァと誰かが言い、べらぼうめェ、蟹だって烏賊(いか)だってアシの数では同じようなものじゃないかと乱暴な論理をふりかざして、作者はスルメを裂いている。これから「さあ、飲むぞ」という酒飲み連中の昂揚感をよく伝えている句だ。それこそ「蟹はなけれど」、赤い蟹の姿まで見えてきそうな気がするところも面白い。(清水哲男)


May 2551997

 ひと日臥し卯の花腐し美しや

                           橋本多佳子

暦の四月は「卯の花月」。昔の人は、この頃に咲く卯の花を腐らせるような霖雨のことを「卯の花腐し(うのはなくたし)」と呼んだ。健康な人にとってはまことに陰欝な雨でやりきれないが、病者にはむしろみずみずしい生気とうつる。臥(ふ)している作者は、降りつづく雨の庭を飽かず眺めながら、心に染みいるような美しさを味わっている。心なしか体調もよくなってきた感じ……。妙なことを言うようだが、長患いは別として、人間たまには寝込むことでストレスの解消になる。煩瑣な日常生活と、否応なく切り離されてしまうからだろう。(清水哲男)


May 2451997

 襖除り杜鵑花あかりに圧されけり

                           阿波野青畝

っと読み下せた人は、なかなかの漢字通です。「ふすまとりさつきあかりにおされけり」と読む。大勢の客を迎える準備だろうか。部屋をブチ抜きにするために、襖を外したところ、杜鵑花(さつき)が満開の庭の明るい光がどっと入ってきて、思わず気圧されてしまったという構図。いかにも初夏らしい気分を的確にとらえた、見事な作品である。杜鵑花は「つつじ」の親戚だが、陰暦の五月に咲くので「さつき」となった。ところで、今週あたりから来月上旬にかけて、各地で「さつき展」が開かれる。今年は、桜からはじまって一般的に開花が早いので、あまり盛り上がらないのではないかと、これは関係者の話。(清水哲男)




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