1997N71句(前日までの二句を含む)

July 0171997

 兇状旅で薮蚊は縞の股引よ

                           島 将五

人に追われての兇状旅。勝新太郎のはまり役だった「座頭市」や芝居でお馴染みの「国定忠治」などが、兇状持ちの庶民的ヒーローだ。そんな兇状持ちのいでたちとの類似性を、薮蚊に発見したところが極めてユニーク。薮蚊に刺されると、実に痛い。なにせ兇状持ちなのだからして、手加減などは無しの世界だ……。と、そこまで作者は言っていないけれど、この見立ての面白さは抜群だ。将五の句にはどこか並外れた発想があって、とても万太郎系の「春燈」で長い間書いていた人とは思えない。神戸で罹災され四国に移られたと聞いたが、お元気だろうか。『萍水』所収。(清水哲男)


June 3061997

 夫に不満ジョッキに水中花咲かせ

                           岡本 眸

会では、男が面白がって点を入れたくなる作品だ。だが、作者にしてみれば「面白がられる」のは不本意だろう。これは、とても寂しい怒りの句なのだから。男には、こうした女の不満の表現が理解できないので、他人事でもあることだし、面白がってしまうしかないのである。句の収められた本の「解説」で、富安風生が書いている。「僕はあくまでも女には争われない女の匂いが出ているいい句を望むというだけ……」。ただ残念ながら、この句は彼の眼鏡にはかなわなかったらしく、別の「いい句」があげられている。「夫愛すはうれん草の紅愛す」。『朝』所収。(清水哲男)


June 2961997

 田の母よぼくはじゃがいもを煮ています

                           清水哲男

は少年に留守を任せて田に出ていった。少年は母の帰宅を待ちながら、母に命じられたじゃがいもを煮ている。時刻は家の外の青田に日ざしが溢れる昼時と思われる。たとえば句とは立場が逆の「田草とり終へてかへればうれしもよ魚を焼きて母は待ちをり」(結城哀草果)とは作品の空気の色が違う。暮らしは貧しくとも農業が信じられて、少年は少年なりに仕事を分担した時代の回想だろうか。作者は詩人、俳号赤帆。(草野比佐男)

[編者註]「日本農業新聞」(6月17日付)より転載。




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