1997N722句(前日までの二句を含む)

July 2271997

 鰻の日なりし見知らぬ出前持

                           後藤夜半

つものようにいつもの店から出前をとったら、見知らぬ出前持が届けに来た。思わずいぶかしげな顔をすると、察した相手が「臨時なんですよ。丑の日なもんで」と言った。なんでもない日常の一こまを捉えているだけだが、その底に庶民の粋が感じられる佳い句だ。『底紅』所収。(清水哲男)


July 2171997

 横文字の如き午睡のお姉さん

                           宇多喜代子

いえて妙。たとえばワンピース姿のまま昼寝している若い女性の形は、漢字のようではないし仮名のようでもなく、やはりひらひらとした横文字のようだ。これで中年になると太い明朝の平仮名みたいになるのだし、老年になればアラビア文字か。私自身はどうだろう。見たことはないけれど(当たり前だ)、痩せているからたぶん片仮名みたいな寝相なのだろう。この句は拙著『今朝の一句』(河出書房新社・1989・絶版)でも取り上げたが、イラストレーションの松本哉君が大奮闘して、こうでもあろうかとAからZまでのお姉さんの寝相を描いてくれた。スキャナーがあれば、お見せするところなのだが……。(清水哲男)

<と書いて、早朝にアップしたところ> 神奈川県の長尾高弘さんがスキャンして送ってくれました。感謝。お姉さんの寝相はこのようなのです。10時55分。


July 2071997

 紅蜀葵肱まだとがり乙女達

                           中村草田男

蜀葵(もみじあおい)は、立葵の仲間で大輪の花をつける。すなわち、作者は「乙女達」をこのつつましやかな花に見立てているわけで、そのこと自体は技法的にも珍しくないが、とがった肱(ひじ)に着目しているところが素晴らしい。若い彼女らの肱は、まだ少年のそれと同じようにとがっている。が、やがてその肱が丸みをおびてくる頃には、女としてのそれぞれの人生がはじまるのである。戦いのキナ臭さが漂いはじめた時代。彼女たちの前途には、何が待ち受けているのだろうか。今がいちばん良いときかもしれない……。作者はふと、彼女らの清楚な明るさに人生の哀れを思うのだ。第二句集『火の島』(1939)に収められた句。この作品の前に「炎天に妻言へり女老い易きを」が布石のようにぴしりと置かれている。時に草田男三十九歳。(清水哲男)




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