1997N723句(前日までの二句を含む)

July 2371997

 雲の湧くたびに伸びんと夏蓬

                           廣瀬直人

ことにもって暑苦しい光景。蓬(よもぎ)も、蓬餅のために摘むころにはむしろ可憐でさえあるが、夏場にかかると、もういけない。図太く生長しつづけ、引っこ抜こうにも根が頑固で、ちっとやそっとの力では引き抜けなくなってしまう。蓬の生態を、実に的確にとらえた作品だ。もとより作者は、どちらかといえば、そうした蓬の生命力の強さに賛嘆の念を抱いているのである。元気な我が身との相似性を言っているようにも読める。猛暑も楽し。かつ風流でもあるということだろう。(清水哲男)


July 2271997

 鰻の日なりし見知らぬ出前持

                           後藤夜半

つものようにいつもの店から出前をとったら、見知らぬ出前持が届けに来た。思わずいぶかしげな顔をすると、察した相手が「臨時なんですよ。丑の日なもんで」と言った。なんでもない日常の一こまを捉えているだけだが、その底に庶民の粋が感じられる佳い句だ。『底紅』所収。(清水哲男)


July 2171997

 横文字の如き午睡のお姉さん

                           宇多喜代子

いえて妙。たとえばワンピース姿のまま昼寝している若い女性の形は、漢字のようではないし仮名のようでもなく、やはりひらひらとした横文字のようだ。これで中年になると太い明朝の平仮名みたいになるのだし、老年になればアラビア文字か。私自身はどうだろう。見たことはないけれど(当たり前だ)、痩せているからたぶん片仮名みたいな寝相なのだろう。この句は拙著『今朝の一句』(河出書房新社・1989・絶版)でも取り上げたが、イラストレーションの松本哉君が大奮闘して、こうでもあろうかとAからZまでのお姉さんの寝相を描いてくれた。スキャナーがあれば、お見せするところなのだが……。(清水哲男)

<と書いて、早朝にアップしたところ> 神奈川県の長尾高弘さんがスキャンして送ってくれました。感謝。お姉さんの寝相はこのようなのです。10時55分。




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