1997N829句(前日までの二句を含む)

August 2981997

 夏痩せてすでに少女の面影なし

                           岡田日郎

段はそのふっくらとした体つきに、どことなく幼さも感じられる女性だった。が、痩せてくるともはやそんな少女の面影は消えてしまい、一人の大人の「女」としての存在感が際立つようになったというのである。余談になるが、最近は「夏痩せ」という言葉をほとんど聞かなくなった。明らかな「夏痩せ」の人の姿も見かけない。冷房設備が普及してきたので、誰もが極度の食欲の衰えを感じなくなってきたためだろう。逆にいまでは「夏太り」するという人さえあるようだ。「夏痩せ」も死語になるのだろうか。(清水哲男)


August 2881997

 川水の濁りに添うて夏の果

                           桂 信子

の水が濁っているというのだから、一雨あった後だろう。この時期は、一雨ごとに涼しさが増してくる。濁った川の流れを目で追っていくと、ずっとその先には夏の終りが待ち受けているように感じられる。水の流れは、しばしば時の流れにたとえられてきた。掲句は、その伝統的な比喩を視覚化したものだ。一見平凡な句のようにも見えるが、なかなかどうして、技術的には高度な作品である。清流でないところに、生活感覚もよくにじんでいる。ともかく、いろいろあった今年の夏も、そろそろ終りに近づいてきた……。『緑夜』所収。(清水哲男)


August 2781997

 音より止むスコール人が歩き出す

                           橋本風車

然の大雨である。あわてて人々は屋根のある場所へと駆けこむのだが、夏の俄雨だからじきに止んでしまう。しばらく避難していると、たちまちのうちに晴れて赤い日がさしてくる。そんな夏の雨はたしかに「音より止む」のであって、まだ少し細かい雨が残ってはいても、音が止みかけると待ちかねた人々が次々に歩きはじめる。古来、こういう雨のことを「驟雨(しゅうう)」と呼んできたが、句の雨は「スコール」と思わずも表現したくなるほどに激しかったということだろう。雨は雨でも、夏季ならではの陽性の雨である。(清水哲男)




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