1997N107句(前日までの二句を含む)

October 07101997

 万有引力あり馬鈴薯にくぼみあり

                           奥坂まや

思議な句ですね。なんだか、わかったようなわからないような。くぼみが引力でできたのかね。ニュートンも驚く新発見。馬鈴薯(じゃがいも)は秋の季語。新じゃがは夏の季語。でもポテトじゃ季語は無理だろう。同じものでもカタカナは季語にならない? 鮭は季語でもサーモンじゃ駄目? 奥坂さんは1950年生れ。藤田湘子門。この句は自信作と見えて、句集に同名の『万有引力』がある。このひとも私、好きだなあ。(井川博年)


October 06101997

 色付くや豆腐に落ちて薄紅葉

                           松尾芭蕉

さに日本の秋の色だろう。美しい。芭蕉三十五歳の作と推定されている。舞台は江戸の店のようだが、いまの東京で、このように庭で豆腐を食べさせるところがあるのかどうか。この句を読むたびに、私は京都南禅寺の湯豆腐を思いだす。晴れた日の肌寒い庭で、炭火を使う湯豆腐の味は格別だ。実際に、ほろりと木の葉が鍋の中に舞い降りてくる。そうなると日頃は日本酒が飲めない私も、つい熱燗を頼んでしまうのだ。たまさか京都に出かける機会を得ると、必ず寄るようにしてきた。この秋は改築された京都駅舎も評判だし、行ってみたい気持ちはヤマヤマなれど、貧乏暇なしでどうなりますことやら……。(清水哲男)


October 05101997

 それぞれの部屋にこもりて夜長かな

                           片山由美子

の句は有名になり、あちこちの俳書に収録されている。それほどいまの家族の光景を見事にとらえている、といってもいいのだろう。「孤」独な光景というよりも、親も子もそれぞれ部屋にこもって、本を読んだり、音楽を聞いたりしている。それもいいじゃない、という感じなのだ。でも個室がある家とはうらやましい。わが家には私の部屋はないのです。だからいつも遅く帰るのだ。片山さんは1952年生れ。鷹羽狩行門。この人も私の好きな俳人のひとりである。(井川博年)




『旅』や『風』などのキーワードからも検索できます