関東地方も明日は11月中旬並みの気温という予想。部屋の掃除と蒲団干し。




1997N1025句(前日までの二句を含む)

October 25101997

 秋鯖や上司罵るために酔ふ

                           草間時彦

鯖は嫁に食わすな。それほどに秋の鯖は脂がのってうまいというわけだが、作者は出てきた秋鯖をそっちのけにして、酒に集中している。上司への日頃の不満が積もり積もって、一言なかるべからずの勢い。いくら美味だといっても、今夜は鯖なんぞを呑気に味わっている心の余裕などはないのだ。会社は選べるとしても、上司は選べない。サラリーマンに共通する哀感を、庶民の魚である鯖を引き合いに出して披瀝しているところが、この句のミソだろう。句の鯖は味噌煮でなければならない。(清水哲男)


October 24101997

 天高し不愉快な奴向うを行く

                           村山古郷

高し。気分がすこぶるよろしい。ストレスなんぞゼロ状態で歩いていると、不意にイヤな奴が向こうのほうを歩いていくのが目に入った。とたんに、不愉快になってしまった。奴もきっとストレスゼロ状態なのだろうなと思えるので、ますますイヤな感じになる。それで、足取りも自然に重くなる。……というわけなのだが、なに、先方だって同じことかもしれない。こちらに気がついたら、きっと気分はおだやかじゃなくなるのだろう。ま、いいじゃないですか。せっかくの上天気なのです。人間万歳なのです。この句をはじめて読んだときには、吹き出してしまった。誰もが上機嫌になることを前提にしたような季語「天高し」を、かくのごとく自在に操ることのできる技術を指して、常識では「芸」というのである。(清水哲男)


October 23101997

 追伸の二行の文字やそぞろ寒む

                           中村苑子

ートルズに「P.S. I LOVE YOU」という歌がある。「P.S.」は「Post Script」で「追伸」だ。元来「追伸」は、手紙に主な用件を書いた後で、ふと思いだしたことなどを書き添えるための方便である。だから、普通はたいしたことを書くのではない。しかし、実際はどうなのだろうか。さりげなさを装って「I LOVE YOU」などと、最も重要なことを書いたりほのめかしたりする人も多いのではあるまいか。作者が受け取った手紙のそこにも、かなり重苦しい二行があったにちがいない。その厄介な暗示に、きざしてきた寒さがひとしお身にしみるのである。『白鳥の歌』(1996)所収。(清水哲男)




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