メ暑

January 0511998

 重役陣初笑ひして散ることよ

                           榑沼けい一

事始めのオフィスでの一景。新年の挨拶が型通りに終り、重役陣がお互いに笑顔で散っていく。その笑顔もまた例年のように型通りなのであって、どうやら作者は彼らに好意を持てないでいるようだ。「初笑」の句というと、たいていは楽しい内容なのだが、この句は例外である。とくに今年のような不況の年に読むと、切なくなってしまう。今年は経営者の手腕がより問われる一方で、働く人たちの意識の改革も大いに迫られることになりそうだ。戦後の資本家は労働組合を骨抜きにすることにはなんとか成功したけれど、同時にみずからの骨もいっしょに抜いてしまった。例の不倫心中みたいなものである。これぞ、労働史上「初のお笑い」なのである。来年こそは楽しい「初笑」の句が掲載できますように……。(清水哲男)




『旅』や『風』などのキーワードからも検索できます