January 061998
十二月あのひと刺しに汽車で行く
穴井 太
十二月は極月とも言い、文字通りおし詰った一年の終りである。もう、あとがない。その切羽詰った時期に刺しに行かなければならない「あのひと」とは誰か? もちろん親兄弟や友人ではあるまい。ここは男性にとっての恋人か愛人か、はたまた人妻か? 「ひと」は「女(ひと)」。ヤクザっぽい出入りではなく色恋沙汰ととるべきだろう。道ならぬそれだとすればいっそう芝居がかってくる。ひとを刺すという物騒な行動が、汽車という幾分おっとりしてのどかな手段によっているのは、いかにも滑稽味があり、俳味さえ感じられて嫌味のない句となった。ベンツでも自転車でもピンとこない。句集『土語』(1971)所収。「吉良常と名づけし鶏は孤独らし」という名句を持つ骨太の作者は、97年の12月29日、71歳で亡くなった。(八木忠栄)
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