zン子句

July 2171999

 里心あはれうすれて帰省せり

                           鳥越すみ子

省の句には、故郷や実家のありがたさや懐しさを詠んだものが多い。けれども、いつも誰もが帰省が楽しいとは限らない。べつに故郷を石もて追われたわけではないが、句のように、なんとなく「里心」が薄れる時期もある。それを「あはれ」と感じるのは、作者の人柄のよさを示す。特別な理由などは、何もないのだ。本人にもわからないところで、帰心が働かないのである。しかし、待っている親や家族がいると思う心で、結局は帰省することになる。そのうっとうしさと億劫な気持ち。実家を遠く離れて生活したことのある読者には、すぐに合点がいくだろう。田舎の親や家族には申し訳ないが、都会の実生活の場のほうがよほど魅力的だからだ。今の東京に出てきている若い友人に聞くと、二人に一人くらいは帰省したくないようなことを言う。もちろん、格別な理由など無いのだ。そこで私は先輩ぶって「帰ってあげなよ」などと言う。言いながら、この句を思い出したりもする。でも、せっかくの夏休みじゃないか、とにかく帰省してみろよと言いつづける。(清水哲男)




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