xVaq句

April 0742001

 銀行に口座開きて入学す

                           堀之内和子

元を遠く離れての大学「入学」だ。仕送りを受けとるために、銀行に口座を開いた。生まれてはじめて自分名義の口座を開き、ぐんと大人になった気分である。独り住まいをはじめるときには、いろいろと揃えなければならないが、いまや銀行口座もその一つというわけだ。アルバイトの賃金も、銀行振り込みが普通だろう。とくに私などの世代には、とても新鮮に感じられる句だ。昭和三十年代の前半に入学した我等の世代には、銀行は遠い存在でしかなかった。いかめしい建物のなかで、ぜんたい何が行われているのかも知らなかった。学生時代には、用事などないから一度も入ったことはない。漠然と、生涯無縁な建物だろうくらいに思っていた。当時の仕送りは、現金書留が普通。配達してくれる郵便屋さんが、神々しく見えた(笑)。貯金するほどの額ではないから、銀行はもとより、切手や葉書を買いに行く郵便局の貯金の窓口とも無縁であった。社会人になってから、生まれてはじめての原稿料を小切手でもらったときに、横線小切手の意味もわからず、それこそはじめての銀行の窓口で赤恥をかいたことがある。給料も現金支給の時代だったので、そんなことでも起きないかぎり、銀行とは没交渉のままでもよかったのだ。学生の分際(失礼)で銀行口座を開くのが一般化したのは、70年代に入ったころからだろうか。こういう句を読むと、つくづく古い人間になったなと思う。『新大日本歳時記・春』(2000)所載。(清水哲男)




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