Lnミろこ句

February 1922004

 伸びるだけ伸びる寿命へ納税期

                           有馬ひろこ

定申告の季節が巡ってきた。「納税期」を季語として採用している歳時記があるかどうかは知らないが、当サイトでは春に分類しておく。私などフリーランサーや自営業者にとっては、まことに憂うつな時期である。申告用紙を埋めていく煩雑さもさることながら、埋めていくうちに明らかになってくる納税額を直視するのが辛いからだ。掲句が示すように、高齢になればなるほど、この辛さはいっそう身に沁みるはずである。もうほとんど働けなくなって収入が激減したとしても、とにかく日本のどこかに定住して息をしているかぎりは、それだけで、なにがしかの税金は収めつづけなければならない。句は皮肉っぽくそのことを告げているわけだが、もはや皮肉を言う元気すらない人も大勢いるのだ。納税に関しては、むろんサラリーマンでも事情は同じことだけれど、多くは会社が書類を埋めてくれているので、納税額は同じだとしても、フリーランサーなどよりも辛さは抽象的ですむ場合が多いだろう。「痛いっ」と感じるよりも「仕方がない」と思う人が大半なのではあるまいか。申告書を書いていると、低所得者には言いがかりとしか思えないような税項目もあって、いちいち腹が立つ。それでも日本は自己申告制だから民主的なんだよと役人は言うけれど、最近では、いっそのことヨーロッパのような賦課税方式のほうが良いと思うようになってきた。そのほうが、さっぱりする。オカミの査定で税額が決まるのは確かに民主的ではないかもしれぬが、このシステムも運用次第だから、一概に悪いとは言えないのではないか。……などと愚痴を言っていてもはじまらない、ですね。憂うつな作業が、もうしばらくつづく。江國滋『微苦笑俳句コレクション』(1994)所載。(清水哲男)




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