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October 08102004

 運動会昔も今も椅子並ぶ

                           横山徒世子

語は「運動会」で秋。近所の学校の運動会を、よくのぞく。べつに知人の子や親戚の子が出ているわけでもないのに、つい徒競走スタートのピストルの音や歓声などに誘われて足が向いてしまうのだ。三十分くらい子供たちの元気な動きを見て、満足して帰ってくる。きびきびした身体の動きは、見いるだけで気持ちがすっきりする。が、掲句を読んで「はっ」と思ったことに、もしかすると私が運動会を見に行くのは、そのようなこともあるけれど、もう一つは郷愁を感じたいためかもしれないということだった。騎馬戦や棒倒しは危険なので止めようとかいった競技の変遷はあるにしても、「昔も今も椅子並ぶ」で、運動会ほどにデザインの変わらない学校行事は、他に無いのではあるまいか。入学式や卒業式のスタイルは大きく変わってしまったし、学芸会はほとんど姿を消し、遠足などもあまり遠くまでは歩かなくなった。残るは運動会のみというわけで、あの空間には誰もが子供だった頃の様子が、そのまま保存されていると言ってよいだろう。椅子の並べ方も同じなら、来賓のためのテントも同じだし、流れるマーチも昔と変わらず、運動場に引かれた白線だってそっくりだ。郷愁を誘われるのも、無理はない。この句は端的に、そのあたりの事情を述べている。『新歳時記・秋』(1989・河出文庫)所載。(清水哲男)




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