nbq句

November 20112004

 山風や雪女より北に棲み

                           馬崎千恵子

語は「雪女」で冬。作者は北海道在住。ああ、こういう発想は私などには思いもつかないなと感じ入った。まず、ちょっとした想像では出てこない。むろん「雪女」は想像上の人物ではあるが、この句はむしろ実感の産物なのだ。雪女は、いったいどこに住んでいるのだろうか。雪国以外の人は、ただなんとなく不特定の寒い地方にいるようだとしか思っていないけれど、実際に雪深い土地に暮らしていれば、彼女の住む環境をある程度は具体的に特定して考えられるのだと思う。具体的には、だいたいどこそこのような感じの山里だろうという具合に……。そもそも雪女の想像そのものが、そうした具体的な豪雪の地から生まれたものなのだからだ。しかるがゆえに、彼女よりもまだ自分は「北に棲(す)み」と詠んでも、すらりと自然体である。掲句を、北国の人が読めば、それこそすらりと作者の環境が思われて納得できるにちがいない。似たような話を、北海道出身の草森紳一に聞いたことがある。北海道人は意識と無意識との境目あたりで、「本土」の人よりも「上」の方にいると思っているようだという。正確には北方に住んでいるわけだが、日本地図からの影響で、イメージ的にそう発想してしまうらしい。そのときも面白い話だと思ったが、掲句を読んでなおさらに、環境による人間の先験的な発想の違いについて考えさせられた。「俳句研究」(2004年12月号)所載。(清水哲男)




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