cm句

December 14122004

 冬夕焼しばしロスコが来てをりぬ

                           井田美知代

Rothko
語は「冬(の)夕焼」。冬の夕焼けは、たちまち薄れてしまう。そこを「しばしロスコ」が来ているかのようだと言い止めた。さもありなん。残念ながら私は実際の絵は見たことがないのだけれど、たしかに冬夕焼けは左の図版(ポスター)にあるように、ロスコの醸し出した雰囲気や色調によく似ている。ゴッホに似ているとかミレーに似ているとかと、しばしば私たちは現実の光景を画家の作品になぞらえて感じることがある。が、掲句では似ているという域を超えて、そこにあたかも画家自身が立っているようだと言っているわけだ。画家と一緒に夕焼けを仰いでいるのである。この束の間の共生感がとても鮮やかで、心に沁みた。マーク・ロスコ(Mark Rothko)は、日本ではあまりポピュラーとは言えないだろう。20世紀、ソ連出身のアメリカの画家だ。微妙な色彩、色面と色面を区切る茫洋とした線を特色とする画面は、「アクション・ペインティング」とも「ハードエッジ」の抽象画とも一線を画した、ロスコ独特のもので、不思議な詩情と崇高さを湛えている。アメリカでは、コマーシャル的な空間にも大作を描いている。日本には、千葉県佐倉市の川村記念美術館に、四面の壁に連作を掛け並べた「ロスコ・ルーム」があるそうだ。1970年に謎の自殺を遂げている。六十六歳だった。『雛納』(2004)所収。(清水哲男)




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