県営宮城球場が「フルキャストスタジアム宮城」に。命名権料は年間2億円。高いなあ。




2005N121句(前日までの二句を含む)

January 2112005

 侘助を撫でゝ入りけり法学部

                           須原和男

語は「侘助(わびすけ)」で冬。この花の魅力を、薄田泣菫が次のように書きとめている。「侘助椿は実際その名のやうに侘びてゐる。同じ椿のなかでも、厚ぽつたい青葉を焼き焦がすやうに、火焔の花びらを高々と持ち上げないではゐられない獅子咲(ししざき)のそれに比べて、侘助はまた何といふつつましさだらう。黒緑の葉蔭から隠者のやうにその小ぶりな清浄身(しやうじやうしん)をちらと見せてゐるに過ぎない。そして冷酒のやうに冷えきつた春先の日の光に酔つて、小鳥のやうにかすかに唇を顫(ふる)はしてゐる。侘助のもつ小形の杯では、波々(なみなみ)と掬(く)んだところで、それに盛られる日の雫(しずく)はほんの僅かなものに過ぎなからうが、それでも侘助は心(しん)から酔ひ足(た)つてゐる」。掲句はそんな侘しい小さい花を、そっと撫でて「法学部」の建物に入っていった人物の床しさを言っている。撫でたのは、学生だろうか教授だろうか。建物が農学部や文学部あたりだとありそうな情景だが、法学部だったから、作者も「おや」という感じになった。実際に大学の構内を歩いてみると、それぞれの学部によって建物に出入りする人たちの雰囲気や気質が、なんとなく違う気がする。面白いものだ。ところで、かつて私が通った大学には侘助はともかく、どこぞに花なんぞあっただろうか。いくら思い出そうとしても思い出せない。文学部だったくせに(笑)。『式根』(2002)所収。(清水哲男)


January 2012005

 枯野ゆきつつ縺れる中学生

                           金子皆子

語は「枯野」で冬。「縺(もつ)れる」が良い。下校の途中だろうか。何人かの中学生が、下世話に言えばじゃれあいながら帰ってゆく。よく見かける光景だし、誰にもそんなふうにふざけあった覚えがあるだろう。ちょっと肩で相手を小突いてみたり、からかってパッと走って逃げたりとか。これを町中でやられると、ひどく傍若無人の存在に感じられるが、場所が「枯野」となれば印象はだいぶ違ってくる。ただ茫々とひろがる冬の原では、行き交う人もめったにいない。そこを行く中学生たちだけが、シルエットのようなイメージで浮かんで動いている。つまり、枯野での彼らはほとんど影に等しいのだ。その影たちが、しきりに「縺れ」あっている。見ていると、彼らは単に物理的に縺れているのではなく、彼らの内面までもがお互いにねじれ、からまり、また離れてといった具合に縺れているようなのだ。中学生と言えば、半分は子供で半分は大人みたいなところがある。世間を知っているようで知らないとか、独立心があるようでいて依頼心も強かったりとか、中途半端な年頃だ。そしてこのことは彼ら自身もぼんやりと意識していて、日常的にいわば矛盾の塊としての自己を持て余している。その持て余しようを、掲句は「縺れる」という表現で一掴みにしているのだと思う。作者はその年頃だった自分を重ねあわせているはずだから、ただ微苦笑のうちに眺めているわけではあるまい。『花恋2』(2005)所収。(清水哲男)


January 1912005

 声高になる佐渡よりの初電話

                           伊藤白潮

語は「初電話」で新年。掲載時期が遅すぎた感もあるが、旅先からの「初電話」なので、松を過ぎてもあり得ることだ。作者は千葉県在住。したがって、日常的には佐渡ははるか遠方である。その遠方に来ての電話だから、自然に「声高に」なったというわけだ。佐渡の様子を新春に報告する気のたかぶりのせいもあるだろうが、それよりも遠方から電話をかけている意識から声高になったと解したい。昔の遠方同士の電話だと、たしかに大声でないと聞こえにくい場合があったけれど、今日では単に遠方が原因で聞こえにくいことは稀だろう。だからことさらに声高になることもないのだが、遠いと思うとつい大きな声で話してしまう心理とは面白いものだ。他人事ではなく、ラジオの新米パーソナリティだったころの失敗談がある。スタジオと都内を結ぶ電話でインタビューするときと九州や北海道間のそれとで声の大きさが違ってしまい、しばしば技術マンに注意を受けたのだった。放送では本番前に回線状態をチェックするので、都内であろうと遠方であろうと、同じようにクリアーな状態で通話ができる。それなのに……、というわけだ。遠方との通話だからといって、いきなり声をはりあげられたら技術者はたまらない。この句は、そんな懐かしい日々にも想いを誘ってくれた。『ちろりに過ぐる』(2004)所収。(清水哲男)




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