Ibハ子句

September 0992005

 重陽の穴ある三角定規かな

                           栗栖恵通子

語は「重陽(ちょうよう)」で秋。陰暦九月九日のこと。中国では奇数を陽数としたので、その陽数「九」が月にも日にもつくことからの命名だ。ちょうど菊の盛りの頃ということもあり、「菊の節句」とも言われる。掲句はこの言い伝えを踏まえて、たまたま机上にあったのか、そういえば「三角定規」の「三」も陽数だし,これも重陽のうちだなと面白がっているのだろう。三角定規は普通、45度角のものと60度角のものとが二枚でワン・セットになっている。ただしこれを重ねようとしても、形が違うのでぴったりとは重ならない。重なるところがあるとすれば、真ん中に開けられた丸い「穴」の部分のみだ。そこを重ねれば、見事に重陽となる。したがって、「穴ある三角定規」と「穴」を詠み込んだわけだ。ところで、三角定規の穴は何のために開けられているかをご存知だろうか。単なる装飾のためではない。まことしやかにいろいろと説明する人もいるようだけれど、あの穴は、三角定規で線を引くときに下の紙が動かないようにするためである。つまり、穴に指を入れて下の紙を押さえて使うという、極めて実用的な穴なのである。しかし、たいていの学校ではそういうことは教えないので、折角の穴も使われずじまいになっているのではあるまいか。どんな道具にも、基本的な使い方というものがある。読者のなかに小学校の先生がおられましたら、ぜひ子供たちに教えてやってください『新版・俳句歳時記』(2001・雄山閣出版)所載。(清水哲男)




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