国語、英語、解析1、解析2、日本史、世界史、物理、化学。私の大学受験科目でした。




2006N125句(前日までの二句を含む)

January 2512006

 雪しづか碁盤に黒の勝ちてあり

                           澁谷 道

方の祖父が囲碁好きで、ことにリタイアしてからは近所の碁敵と毎日のように打っていた。お互いの家を行ったり来たりしていたので、掲句のような情景は懐かしい。対局が終わると、たいがい碁盤の上は片づけられていたが、どうかするとそのまま石が残っていることもあった。句は、そのような情景を詠んでいる。主客ともに、たぶんあわただしく出て行ったあとの客間に、作者は片づけのために入ったのだろう。窓外には雪がしんしんと降りつづいており、碁盤の上には熱戦のあとが残されている。これだけでも十分に「雪しづか」の雰囲気は出てくるのだが、作者はもう一歩踏み込んで、黒石の勝ちまでを詠み込んだ。この「黒」が、降る雪の「白」を際立たせていることは言うまでもない。と同時に、ついさっきまで打っていた二人のやりとりも想起され、それがまた「しづか」を強調する効果をあげている。溜め息がでるほどの良いセンスだ。ここで話は脱線するが、しかも一度書いたような記憶もあるが、大学生になったときに、祖父に囲碁を教えてほしいと頼んだことがある。ルールくらいは知っていたけれど、友人とのヘボ同士の対局ではさっぱり上達しなかったからだ。と、祖父曰く。「大学生が、こんなに時間を食う遊びをするもんじゃない。そんな時間があるのだったら、勉強しなさい」。で、そのときに「はい」と素直に答えたおかげで、ついに囲碁とは疎遠のままになってしまった。「俳句」(2006年2月号)所載。(清水哲男)


January 2412006

 フーコーの振子の転位冬牡丹

                           恩田侑布子

語は「冬牡丹(ふゆぼたん)」、「寒牡丹」に分類。厳冬に咲く花を観賞する。霜除けの藁を三角帽子のようにかぶせられた姿が、可愛らしくも微笑ましい。句ではいきなり「フーコーの振子」が出て来て驚かされたが、作者はおそらく、この三角帽子からフーコーの装置を連想したのではなかろうか。フーコーの振子は、地球の自転を視覚的に証明する装置だ。できれば北極か南極にセットするのが理想的だが、赤道を除いた地球の任意の地点に巨大な振子装置を作る。作ったら、振子を水平に揺らしてやる。すると、ちょっと見た目には振子はいつまでも水平運動だけを繰り返しているようだが、そうではない。観察すると、水平運動を繰り返しつつも、徐々に振子は同時に回転もしていることが確認されるのだ。つまり、この回転は地球の自転と連動してからなのであって、北極か南極ならば、振子の転位の軌跡はきれいな円錐形を描き出すだろう。冬牡丹の藁の三角帽子を、このフーコーの振子の「転位」の軌跡である円錐形に見立てれば、そこに咲いているのは牡丹は牡丹でも、どこか宇宙の神秘を感じさせる花のようにも見えてくる。地球は自転している、だからこの花はこのようにある。普段そんなことを思って花を愛でる人はいないだろうが、たまには句のように大胆に視点を変えてみると、これまでは見えなかったものが見えてくることがありそうだ。『振り返る馬』(2005)所収。(清水哲男)


January 2312006

 風花やライスに添へてカキフライ

                           遠藤梧逸

語は「風花(かざはな)」で冬。良く晴れた空から雪片が、ちらつきながら舞い降りてくることがある。遠くで降っている雪が風に吹き送られてくる現象で、まことに美しい。これが風花。掲句はそんな風花が舞うなかで、作者がこれから食事をしようとしているところだ。レストランというよりも、食堂と言ったほうが似合いそうな店でのことだろう。「ライスに添へて」と、わざわざ「ライス」を立ててあるところからして、楽しみのための食事ではなく、空腹を満たすための日常的な食事という感じが強いからだ。言うなれば「カキフライ定食」を注文したのかな。とはいえ、カキフライをおかずにするということは、いつもの定食のレベルよりは、ちょっと張り込んだ食事であるに違いない。何か良いことでもあったのか、作者は上機嫌だ。暖かい食堂の窓から見やると、青い空に風花はますます美しく舞っており、作者はささやな幸福感に、束の間ながらも浸ることになるのだった。おだやかで明るい句だけれど、しかし一抹の哀感も漂っている。ささやかな幸福感とは、まこと風花のように、移ろいやすく消えやすいものだからだ。それにしても、風花とは巧みなネーミングだ。むろん外国にも同じ気象現象はあるだろうが、これほどに美しい呼び名はないのではあるまいか。『新歳時記・冬』(1989・河出文庫)所載。(清水哲男)




『旅』や『風』などのキーワードからも検索できます