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April 2342006

 原宿を雨過ぎにけり蔦若葉

                           芹沢統一郎

語は「蔦若葉(つたわかば)」で春。晩春の頃の蔦の若葉。木々の「若葉」は夏の季語だが、草類の若葉は春である。掲句の「蔦若葉」は「原宿」にあるというのだから、表参道にあった同潤会青山アパートのそれだろう。このアパートは築後六十数年の老朽化のためすでに取り壊されており、跡地には安藤忠雄設計による新しい建物が建てられている。健在であった頃には、原宿に出かけるたびに、そのどっしりと安定した存在感に心癒されたものだった。とりわけてその昔、原宿にまだ若者たちが集まってこなかった時代には、古き良き時代の東京の住宅地を象徴するかのようなたたずまいを見せていた。このアパートが姿を消してからの原宿は、私のような年代の者にとって、どことなく落ち着かない街になってしまった。昔のそんな原宿に、通り雨だろうか。しばし柔らかな春の雨が降り注ぎ、そして程なく雨は止んだ。と、雲間から今度は明るく日が射してきて街を照らし、いささか古色を増してきた青山アパートの外壁に這う蔦若葉も生気を取り戻してきたのだった。雨に洗われた蔦若葉の光沢がなんとも美しく、作者はしばし路傍にたたずんで見上げていたのだろう。都会がときに垣間見せる都会ならではの美しさを、淡くさらりと水彩画風にスケッチしてみせた佳句である。『新歳時記・春』(1989・河出文庫)所載。(清水哲男)




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