@句

September 0892007

 露しぐれ捕はれ易き朝の耳

                           湯川 雅

は一年中結ぶものだが、夜、急に冷え込む秋の初めに多く見られることから秋季。露しぐれ、とは、夜のうちに木々に宿った露が、朝になってしたたり落ちるのをいう。晩夏から初秋にかけて、花野に色が増える頃、高原などではことさら朝露が匂う。早朝、ゆっくり息を吸って、瑞々しい大気を体中に行き渡らせると、まず五感がくっきりと目覚めてくる。そして、おもむろに息を吐く。すると、かすかな朝の虫、鳥の声、風音と共に、ぱらぱらとしたたり落ちる露の音が耳に届いてくる。細やかで透明な秋の音。露しぐれは、これだけで情景を言いおおせてしまう感のある言葉であり、ともすれば情に流されやすく、一句にするとその説明に終わってしまう可能性もある。また、澄んだ朝の空気の中では音がよく聞こえる、というのも誰もが感じることだ。この句の場合、捕はれ易き朝の耳、という少し理の克った、耳を主とした表現が、露しぐれの音と呼応しつつ、常套的な説明からふっとそれたおもしろさを感じさせる。俳誌「ホトトギス」(2002年3月号)所載。(今井肖子)




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