ymq句

April 1442008

 囀や島の少年野球団

                           下川冨士子

語は「囀(さえずり)」。繁殖期の鳥の雄の鳴き声を言い、いわゆる地鳴きとは区別して使う。ゴールデン・ウイークのころに、盛んに聞かれる鳴き声だ。そんな囀りのなかで、子供たちが野球の練習に励んでいる。休日のグラウンドだろう。目に染みるような青葉若葉の下で、子供たちの元気な姿もまた眩しく感じられる。ましてや、みんな「島」の子だ。過疎化と少子化が進んできているのに、まだ野球ができるほどの数の子供たちがいることだけでも、作者にとっては喜びなのである。とある日に目撃した、とある平凡な情景。それをそのまま詠んでいるだけだが、作者の弾む心がよく伝わってくる。一読、阿久悠の小説『瀬戸内少年野球団』を思い出したけれど、こちらは戦後間もなくの淡路島が舞台だった。句の作者は熊本県玉名市在住なので、おそらく有明海に浮かぶどこかの島なのだろう。そういうことも考え合わせると、いま目の前でいっしょに野球をやっている子供たちのうち、何人が将来も島に残るのかといった一抹の心配の念が、同時に作者の心の片隅をよぎったかもしれない。『母郷』(2008)所収。(清水哲男)




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