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May 2852008

 石載せし小家小家や夏の海

                           田中貢太郎

太郎は一九四一年に亡くなっているから、この海辺の光景は大正から昭和にかけてのものか? 夏の海浜とはいえ、まだのどかというか海だけがだだっ広い時代の実景であろう。粗末で小さい家がぽつりぽつりとあるだけの海の村。おそらく気のきいた海水浴場などではないのだろうし、浜茶屋といったものもない。海浜にしがみつくようにして小さな家が点々とあるだけの、ごくありきたりの風景。しかも、その粗末な家の屋根も瓦葺ではなく、杉皮か板を載せて、その上に石がいくつか重しのように載っけられている。いかにも鄙びた光景で、夏の海だけがまぶしく家々に迫っているようだ。「小家小家」が打ち寄せる「小波小波」のようにさえ感じられる。何をかくそう、私の家も昭和二十五年頃まで屋根は瓦葺でもトタンでもなく、大きな杉皮を敷きつめ、その上にごろた石がいくつも載っかった古家だった。よく雨漏りがしていたなあ。貢太郎は高知出身の作家。代表作に『日本怪談全集』があるように、怪談や情話を多く書いた作家だった。そういう作家が詠んだ句として改めて読んでみると、「小家」が何やら尋常のもではないような気もして謎めいてくる。貢太郎の句はそれほど傑出しているとは思われないが、俳人との交際もさかんで多くの句が残されている。「豚を積む名無し小駅の暑さかな」という夏の句もある。「夏の海」といえば、渡邊白泉の「夏の海水兵ひとり紛失す」を忘れるわけにはいかない。『田中貢太郎俳句集』(1926)所収。(八木忠栄)




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