iq句

November 02112008

 子蟷螂生まれながらの身の構え

                           松永昌子

が家には、今年で5歳になる犬(ヨークシャーテリア)がいます。むろん成犬ですが、からだはいつまでも小さく、散歩時に抱っこをして歩いていると、永遠に子供でいるような錯覚を覚えてしまいます。両腕で抱えて顔を寄せると、きまって顔をなめてきますが、そのたびに、なんと大きく口が裂けているものかと、自分の顔とは違った形に、あらためて驚きます。生き物というものは、ものみな種としての固有の形を持っており、そのことの驚きを感じればこそ、自分とは異なる生き物をいとおしく思う気持ちは、さらに増してきます。本日の句も、感じ方の根は同様のところにあるのではないでしょうか。子供の蟷螂(かまきり)は、まだ生まれたばかりなのに、すでに蟷螂の形をし、親と同じような姿で、鎌を空に上げています。その不可思議さを、あたらしい驚きとして、あるいは生きることの静かな悲しみとして、あらためて受け止める姿勢を、わたしは嫌いではありません。「読売俳壇」(「読売新聞」2008年10月27日付)所載。(松下育男)




『旅』や『風』などのキーワードからも検索できます