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February 2222009

 春日や往来映ゆる海のへり

                           小杉余子

んなにすぐれた句に出会っても、読んですぐには、いったい自分がその句の、どのような点に感動したのかが、明確にはわかりません。その時の印象としては、ただひどく気になって仕方がない、というだけのことなのです。今日の句を読んだときにも、どうしてこの句が新鮮に感じたのかが、しばらくわかりませんでした。とにかく鮮やかなものが、こちらに押し寄せてきたのです。幾度も読み返しているうちに、自分の中の受け止め方が、少しずつ見えてきました。それはおそらく、視点が、陸地から海へ向かっているのではなく、逆方向に、つまりは海のほうから陸地を見下ろしているように感じたからなのです。その陸地は、断崖絶壁の手の届かないところにあるのではなく、手を伸ばせばすぐに触れられそうな、人々がいくらでも歩いている「往来」だというのです。「映ゆる」は、海の照り返しが光となって、往来を行き来する人々の顔を下から照らしているということでしょうか。人々の日常の、すぐ隣に非日常の海が迫っている。生きるとはそのようなことなのだと、美しく、言われているようです。『角川俳句大歳時記 春』(2006・角川書店)所載。(松下育男)




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