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February 2422009

 蝶の恋空の窪んでゐるところ

                           川嶋一美

句の季語「蝶の恋」とは、「鳥の恋」「猫の恋」同様、俳句特有の人間に引きつけた思い切り遠回しな発情期や交尾を意味する表現である。ことに「蝶の恋」は、おだやかな風にのって、二匹の羽がひらひらと近づいては遠のき、舞い交わすロマンチックで美しいイメージを伴う。蝶の古名は「かわひらこ」。語源でもあろうが、そこから響く音感には春の陽光に輝く川面をひらひらと飛ぶ姿が鮮明にあらわれてる。中国で「一対の蝶」とは永遠の絆を象徴するように、この若々しく可憐ないとなみが「空の窪み」という愛らしい表現を生んだのだろう。では一体全体「空の窪み」とは具体的にどのような…、などというのはめっぽう野暮な詮索というものだ。思うに、青空がにっこり笑ったときに、ぺこんと出来たえくぼのようなところだろう。あからさまに明るすぎることなく、二匹の蝶が愛をささやき身を寄せるために誂えたような、特別な場所である。〈じつとり重し熟睡子と種俵〉〈午後はもう明日の気配草の絮〉『空の素顔』(2009)所収。(土肥あき子)




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