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August 1882009

 台風の目の中にあるプリンかな

                           蔵前幸子

象情報などで日本列島を鳥瞰する映像を見ると、なるほど台風の目とはよく言ったもの、という具合のつぶらな中心がある。災害であるから、つぶらなどという言葉は適切ではないが、「大型で強い」「超大型で非常に強い」などの形容にも、台風に対してまるで命あるもののように思わせる力がある。台風の踏み荒らす進路がこういくか、はたまたああいくかと、地図上の経路線は入り組み、しかし渦巻きは、いかに気象衛星を飛ばそうが、科学が発達しようが百年前とまるで変わらない気ままさで動き回る。予想図があるために天災でありながら、地震や噴火などの畏怖とは若干異なり、大きくて荒っぽい神さまのお通りのように思えるのかもしれない。現代では雨戸を打ち付けたり、蝋燭の準備をしたりすることもなくなったが、あの「いよいよ来る」というハラハラと高ぶる気持ちは忘れがたい。台風の目の中は、もうしばらくしたら必ずまた来訪される「ひとつ目」の神さまのご機嫌を予感しながらの、束の間の平安である。ふるふると震えるプリンのてっぺんに乗るカラメルの茶色が、怖れず天を睨み返す目玉のように見えてくる。『さっちゃん』(2009)所収。(土肥あき子)


November 17112011

 三代の女系家族が菊燃やす

                           蔵前幸子

系は女の系統、母方の血統と辞書にある。卷族の男性の影が薄く女中心に物事が決定される家なども女系家族と呼ばれることもあるようだ。掲句のシーンは祖母、母、娘がぐるりと火を囲んで枯菊を燃やしているのだろう。ただ、枯れた菊ではなく単に菊を燃やすと書かれているので、乱れ咲いている菊をそのままくべているようで生々しい。菊は延命長寿、邪気払いの薬効のある花でその菊を燃やす様子がまじないをしているようで怖い。これが祖父、父、息子の組み合わせだとまた様子が変わってくるだろう。三代は三人にも通じ、マクベスの魔女も思わせて、枯れ菊を焚く光景が怪しい雰囲気を醸し出している。『さっちゃん』(2009)所収。(三宅やよい)




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