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November 10112009

 焼き上がる鯛焼きのみなこちら向き

                           小川春休

前の蕎麦屋はたい焼きも販売するが、夏の間はずっと休みである。そしてある日「たい焼き始めました」の看板が出ると、風がぐっと冷たくなったことに気づく。久しぶりに再会するたい焼きは鉄板の上でほかほかと休んでいた。鉄板には、ずらりといっぺんに焼けるタイプと、一尾ずつ焼くタイプがあり、たい焼き通は前者を養殖もの、後者を天然ものと呼び分けているらしい。一尾ずつの焼き型は、くるくるとひっくり返す把手側が口先となっており、掲句の通り、焼き手に向かって焼き上がる格好となる。とはいえ、客の視線で、店先のウインドウに全員口先を並べているという姿を想像するのも、今まさにこちら側に飛び出しそうな勢いがあってなんとも楽しい。ところで、たい焼きはどこから食べるか。このたびわたしはこちら向きにしたたい焼きをまじまじと見つめ、とってもセクシーなくちびるに気づき、思わずぱくっと頭から食べた。そののちたい焼きの心理テストなるものを見つけた。頭派か尻尾派の二者択一と決め込んでいたが、背びれや腹びれから食べる人もいるそうで、さらには半分に割って尻尾から、などと、きわめて少数派の意見まで網羅され、あまりにも無責任な解説ながら大いに笑ってしまった。頭派は行動力はあるがやり方が雑…。おそらくいつも頭から食べているのだと確信した。『銀の泡』(2009)所収。(土肥あき子)




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