ca]句

November 23112009

 吊革に双手勤労感謝の日

                           長田和江

人の様子ではなく、自分のことを詠んだと見るほうが味わい深い。作者は女性だ。女性が双手(両手)で吊革につかまる姿はあまり見かけない。よほど疲れているのだろう。サービス業なのだろうか。とにかく祝日でも休めない職に就いている。今朝もいつもの時刻に出勤のため、電車に乗っている。いつもとは違って車内はだいぶ空いており、双手で吊革につかまるほどの余裕はある。そこで思わずも自然に双手で吊革をつかんでいる自分に、気がついた。あらためて、疲労している自分を確認した。周囲には行楽地に向かうとおぼしき家族連れなどもいて、ああ休みたいなと思う気持ちが込み上げてくる。そういえば、吊革にすがっている自分の姿は、そんな気持ちを天に向かって祈りを捧げているようではないか。微苦笑している作者の顔が目に浮かぶ。まったくもって同情したくなってくるけれど、しかしこの不景気、この就職難時代のことを思えば、作者はまだまだ幸せなほうである。いま「勤労感謝の日」という言葉が最も身にしみているのは、ただいま失職中の人たちなのではなかろうか。働きたくても働けない。一日も早く、そんな状況が消えてなくなりますように。『現代俳句歳時記・秋』(2004・学習研究社)所載。(清水哲男)




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