il句

January 2212010

 冬服や鏨のいろの坂に入る

                           進藤一考

(たがね)は石や鉄を削る工具。多くは棒状で握る部分は黒く、先に刃がついている。鏨のいろとはこの黒い色を言うのだろう。坂が鏨のいろというのは、冬季の路面に対する印象。これはむき出しの土の色ではなく、舗装路の色かもしれぬ。そこを着ぶくれた冬の装いをした人が上っていく。冬服の本意は和装かもしれないが、舗装路で洋装ととらないとこれはいつの時代の話かわからなくなる。鏨の比喩でモノクロームな色合の冬の寒さが表現されている。もうひとつ、冬服やという置き方は最近の句には珍しいかたち。冬服が下句の動作の主語になる古典的な「や」である。『貌鳥』所収(1994)所収。(今井 聖)




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