ト搭

January 2412010

 武蔵野の雪ころばしか富士の山

                           斉藤徳元

ころばしというのは雪ダルマのことです。たしかに雪ダルマを作るためには、雪を転がして少しずつ大きくしてゆくわけですから、「雪ころばし」というかわいらしい言葉は、適切な名前と言えます。関東地方南部に長年暮らしているわたしは、雪ダルマを作るほどの積雪はめったに経験したことがなく、だからきちんとした雪ダルマなど作った記憶がありません。いつも中途半端にでこぼこで、泥のついた情けないものでした。江戸期の「雪ころばし」は、単に雪を転がして大きくしたもので、目鼻をつけることもなかったようです。だから余計に、遠方にぬっくと立ち尽くす富士山を、雪ダルマに見立てるなどという発想が出てきたのでしょう。冬の富士の気候は厳しく、武蔵野平野に作られた雪ダルマなどという暢気なものではありません。でもそれを言うならもちろん、雪に覆われた冬の生活そのものが日々過酷なものであり、だからこそこのような句で、心だけはほっとしたかったのかもしれません。『俳句大観』(1971・明治書院)所載。(松下育男)




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