nモ乃q句

February 0122010

 海豹のやうな溜息二月なり

                           渡辺乃梨子

月といえば、間近の春を待つ心情を詠んだ句の多いなかで、この句は違う。あわただしく動き回っているうちに、ふと気づけば、もう二月になってしまったのかという焦燥感のあらわれた句だ。だからついて出る溜息もかそけきそれではなくて、さながら「海豹(あざらし)」の鳴き声のように荒々しいものになったというのである。私も父の緊急入院以来、こんな溜息を何度かもらした。もらした瞬間に、喉の奥がごおっという感じで鳴るのである。経過は順調で週末には退院できそうだが、これを幸いと言うにはその後に問題が山積しすぎているからだ。長生きも考えものだな。などと、親不孝な想念も思わずわいてきてしまう。どなたでもそうだろうが、かといって急に介護一辺倒の生活に切り替えるわけにもいかず、しかし現実は容赦なく進行するばかりなのだから、本音のところでははただうろうろおろおろするばかり。我ながら情けないとは思うけれど、出るのは海豹のような溜息ばかりなりである。そして、四日は早や立春。どんな春になるのかなあ。俳誌「梟」(2009年3月号)所載。(清水哲男)




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