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June 1162010

 空梅雨の黒々とくる夜空かな

                           中村夕衣

という字がふたつあり、一方は「から」一方は「そら」。雨は空からくるものだから梅雨と空はイメージが重なる。夜は暗いものだから黒々と夜は重なる。全部で13文字のあちこちで意味や背景や色の印象が重なり、ふつうなら欠点となるその重複感が逆に圧倒的な天空の黒の量感を出している。意図しても得られない世界というと作者にとってうれしい評言かどうかはわからぬが、言葉のイメージの足し算引き算に長けた人にはこんな句はできない。計算づくでは得られない世界をどうやって計算して出すか。古典への造詣などを知的背景として蓄えたあげくに童心に戻ることができるか。それは芭蕉が心に置いたことでもあった。「俳句」(2009年9月号)所載。(今井 聖)




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