本日は隔月開催の定例余白句会。兼題は「薔薇」「ボート」「極」。(哲




2010N619句(前日までの二句を含む)

June 1962010

 息づかひ静かな人と蛍の夜

                           茨木和生

種の蛍は、たくさんいても同じリズムで光るのだという。まだ薄明るい空を時々仰ぎながらじっと待っていると、ひとつ、またひとつ光り始め、気がつくと蛍の闇の中にいる蛍狩り。そのリズムが、熱を持たない光を、蛍の息づかいのように感じさせるのだろう。残念ながら私は、子供の頃近所の川で見たとか、句友数人と蛍狩りに行ったとかいう記憶しかない。この句の作者は、二人並んで同じ蛍を見ながら、同じ時間を過ごしていることに、同じ空気を吸っていることに、静かな喜びを感じている。まわりにたくさん人がいて話し声がしていても、作者に聞こえるのは目の前の蛍の鼓動と、隣にいる人のかすかな息づかいだけ。女流作家の蛍の夜の句とはまた違った艶を持つ句、遠い記憶の中の忘れられない蛍の夜、なのだろうか。『畳薦』(2006)所収。(今井肖子)


June 1862010

 新緑やまなこつむれば紫に

                           片山由美子

をつむったときに見える色や形がある。あれは何だろう。今眼をつむるとまっくらな空間に明るい方形のかたちがみえる。泡のようなものが通り過ぎていくこともある。作者は、新緑の中で眼をつむったその「視界」が紫に見えた。外の緑と内なる紫が美しい調和になっている。これは思念ではないからむしろ即物写生の句である。「俳句」(2009年7月号)所載。(今井 聖)


June 1762010

 冷房のなかなか効かぬ男かな

                           渋川京子

場に男と女が争う原因のひとつがこれではないか、一読おかしくなった。クールビズの影響か、この頃はノーネクタイのサラリーマンをよく見かけるが、外回りから帰るやいなや暑い暑いと設定を「強」にして吹きつける冷風を浴び書類で顔を仰いだりする。体感温度そのものが違うのか家での冷房も「なかなか効かぬ男」と冷えすぎる女との間で闘いが浮上してくる。そんな背景も踏まえつつ、気が効かないのか態度がでかいのか、まわりが冷ややかな視線を向けているのに、そんな雰囲気をものともしない男を冷房の効かない男にかけているようで、何ともユーモラス。それでも、この「男」の部分を「女」に変えると洒落にならないように思う。女が男をからかうと同時に寄りかかる気分もあって、そのあたりの機微がこの句の味わいを演出しているのだろう。『レモンの種』(2009)所収。(三宅やよい)




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