半句

July 1072010

 まくなぎを抜け出して来て一人酒

                           星野半酔

号から推察してもお酒が嫌いではない作者だろう。〈荒塩があれば事たる霰酒〉〈ささ塩を振りて一人の小鰺かな〉などとも詠まれているので、お酒は好きなものを好きな時にじっくり一人で楽しむのを是とするタイプ。会話や酔うことを目的に飲むのではなく、お酒そのものが好きなのだ。まくなぎ、めまとひ。糠蛾とはよく言ったものだと思う。ただでさえ蒸し暑いのにともかくまとわりつき、立ち止まれば不思議と止まり、うっとおしいことこの上ない。そんなまくなぎを本当に抜けてきたのかもしれないが、何かをまくなぎになぞらえているのだとすれば、それはただの人混みなのか酒宴の喧噪か。後者だとすると、それなら大勢での酒席には行かなければいいのだが、なかなかそうもいかないし逆に、やれやれ、とその後じっくり飲む一人酒はことさらしみるのだろう。お目にかかってみたかったな、と思わせる遺句集『秋の虹』(2009)所収。(今井肖子)




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