ム aq句

August 0882010

 熱出す子林間学校一日目

                           林 和子

だまだ貧しい時代に学生だった私には、修学旅行以外に旅行などに行く機会はありませんでした。長い夏休みも、だから基本的にはなにもやることもなく、毎日ごろごろしていた記憶があります。それでもどういった加減か、中学一年生のときに一度だけ、林間学校へ行かせてもらったことがあります。今考えれば、親もたくさんの子供を抱えて生活も大変だったろうに、よくそんなお金を出してくれたものだなと、ありがたくも思い出すのです。たった一度の林間学校だから、今でも鮮明に八ヶ岳に登ったことを覚えています。旅行の前の数日間は、待ち遠しくて仕方がなく、どうしてこんなに楽しいことが自分の人生に起こるのだろうと、わくわくしていました。おそらく繊細な感受性の子供であったなら、本日の句のように、そんなときにはなぜか熱などを出して楽しみも台無しになってしまうのでしょうが、生来鈍感なわたしは、幸せをそのまま欠けるところもなく、まるごと受け取ることができたのです。『角川俳句大歳時記 夏』(2006・角川書店)所載。(松下育男)




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