c句

August 1082010

 桐の実や子とろ子とろと遊ぶこゑ

                           千田佳代

は天上に向かうような薄紫色の美しい花を付け、その実は巫女が持つ神楽鈴のようなかたちとなる。日盛りには緑陰を、雨が降れば雨宿りを提供してきた桐の樹下は、子どもたちの集合場所でもあっただろう。先日の新聞に今どきの小学生の4人に3人は「缶けり」をしたことがないという記事があった。20代以上の92%が「経験がある」という数字と比べると、あまりの低さに驚くが、周囲を見回してみればたしかに見かけない。理由は「時間がない」などを挙げるが、もはや放課後に集団で遊ぶという形態自体がまれなのだろう。掲句の「子とろ鬼」も、今はほとんど見られない遊びのひとつだろう。子とろ鬼は鬼ごっこの一種で、じゃんけんで鬼を決めたら、他の子どもは前の子の腰に手を回して一列になる。一番前にいる子が親となり、鬼が最後尾の子をつかまえようとするのを、親は両手を広げて阻止をする。親を先頭にした一列は、腰に回した手が離れないように逃げなければならず、足をもつれさせながら、蛇行を重ね逃げていく。太い幹を囲み、「子をとろ、子とろ」とはやしながら子を追う鬼の声が聞こえなくなってから、桐は幾度花を咲かせ、実を付けたことだろう。〈あれで狐か捕はれて襤褸のやう〉〈冬と思ふひとりや椀を拭くときに〉『樹下』(2010)所収。(土肥あき子)




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