_句

December 20122010

 どつちみち妻が長生きふぐ白子

                           西村浩風

ぐ(河豚)には「てっぽう」の異名がある。「あたると死ぬ」からだ。毎年冬になると、ふぐの毒にあたった人の記事が新聞に乗る。運が悪いと落命する人もいるけれど、最近はずいぶん少なくなってきた。それでも、いざふぐを食べるとなると、ほとんどの人は内心で身構える。中毒で死にたくないわけだが、それなら食べなければよいのにというのは不人情な理屈であって、やはり美味いものは食べておきたいのが人情である。だから掲句のように、いちおう言い訳をしてから食べることになる。食べなくたって、人はいずれ死ぬ。それもたとえ長生きしたところで、どっちみち妻よりも先に死ぬ宿命だ。だったらいま、このふぐにあたって死ぬにしても同じことではないか。などと、自分に言い訳しながら食べるのである。この句の面白さは、よく考えてみれば理屈にも何もなっていない理屈で自己説得しているところだ。これもまた人情のうち。これだから、人間は面白い。もう少し言えば、人間には他愛無くも可愛いらしいところがある。『円虹例句集』(2008)所載。(清水哲男)




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