pa句

May 2652011

 五月闇吸ひ込むチェロの勁さかな

                           朝吹英和

ェロは魅力的な楽器である。単独でのチェロの演奏を切り開いたのはパブロカザロスらしいが、古ぼけた復刻版でバッハの「無伴奏」など聴いていると心が落ち着く。チェロは弦楽器であるから、弓で弦を振動させて音を出すのだが、そのチェロの響きを「五月闇」を「吸ひ込む」と表現してチェロの太くて低い音質を感じさせる。雨を含んで暗い五月闇は否定的な印象で使われることが多いが、この句の場合その暗さをゆったりと大きく広がる魅力的なチェロの響きに転換し、しかもそれをチェロの「勁さ」と規定しているところに魅力を感じる。作者自身演奏者なのか、この句集では様々な楽器をテーマに音楽と季節との交歓を詠いあげている。「モーツァルト流れし五月雨上る」「薔薇真紅トランペットの高鳴れり」『夏の鏃』(2010)所収。(三宅やよい)


May 1752012

 終りから始まる話青葉木莵

                           朝吹英和

き出しから、終わっている話ってあるなぁ、とこの句を読んでそんな小説の書きだしを思い出してみた。結末は予想されないけど、何かしらことが終わった回想で筋を追う形式のものか、コロンボや古畑任三郎のように犯人も結末も提示した中で話が始める推理物か。ともかくも、後ろから読み手が展開を追う話だろう。暗闇でずっと目を開けて、鋭い爪で獲物をとらえるふくろうは知の神とされていて、ギリシャの女神アテナイの使いでもある。何もかも知っている青葉木莵の低い鳴き声で神秘的なドラマが展開される。「夏燕王妃の胸を掠めけり」「降り注ぐラヴェルの和音新樹光」など古典や音楽から題材をとった句が多いこの句集全体の語り手も青葉木莵なのかもしれない。『光の槍』(2006)所収。(三宅やよい)




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